2014年春に韓国全羅南道珍島郡沖で発生した“国民的トラウマ”セウォル号沈没事故から6年。
引き上げられた船体がまだ解体されずに残っているというので見に行ってきた。
“事故”については現在ほとんどのことが解明され(未だ行方不明者数名)、それによってコレがとんでもない“人災”、そして“事件”だったことも詳らかになっている。

発生から半月後、2014年5月初頭のソウル広場。追悼の祭壇やテントが設けられ、旧市庁舎には大きく「미안합니다(ミアナムニダ)=ごめんなさい)の文字が
コレが韓国人にとって「光州事件」並みの大きな転換点になった(か、どうかは経過観察が必要)歴史的事象だという事も分かってきた。諸説ありますが、大統領の弾劾にまで繋がったワケで。

広場に設けられた「合同焼香所」。
長蛇の列ができていた。その中にただボンヤリと佇むだけの人やジッと座り込んでいる人が居たのが印象的
この国家的大事件を経てからの韓国の現状について、ここで良し悪し言う気は全くないけれど、まあいろんな意味で日本人にも超ド級のインパクトある事件だったのは間違いなく、その大元である船体が残っているとなれば、見ておくしかないでしょ。

犠牲者を悼む人たちが想いを込めて作った折り紙の船が芝生を埋め尽くしていた。
この時点ではまだ行方不明者も多く、日々刻々と不祥事やダメな大人の所業が明らかになっていく最中で、怒りと哀しみ、そして恥と恨が渦巻く異様な空気だった
不謹慎で申し訳ないが、行動原理のほとんどが“興味本位”と“野次馬根性”でできている俺などは居ても立っても居られないという事で。
船体が引き上げられたというニュースは、日本でも「今頃かよ!」的な反応もあり話題になったので、全羅南道の端、木浦の港に運ばれた事は当然押さえてあり。

2019年、発生から5年目の春。光化門広場で何か祈祷の儀式のようなものをやっていた
そんで、こないだ突発的に挙行した「全羅南道ぶらり旅」の計画中にふと思い出して調べたら「全然行動範囲内じゃん!」と気づき、「殺人の追憶」聖地巡礼に次ぐ“重要ミッション2”に定めて旅程に組み込んでみたとゆーわけ。
木浦に行くにはKTX湖南線で終点までなのでどこから行っても分かりやすい(国が狭いからどこからでも近い)。
俺はこの時、よせばいいのに全羅南道の潭陽(タミャン)っていうド田舎の温泉にいたので、バスで光州に出て、「光州松汀駅」からKTXに乗り込んだ。

全羅南道を攻めるには光州起点が便利。「光州松汀駅」にはきっと何度も来ることになろう
木浦市には、韓国のド田舎にありがちな比較的しみったれた岩とか岩山などの観光スポットがあるのだが、今回はそれらも海鮮グルメも島めぐりもスルー。「セウォル見学」1本に絞ってGO。

「木浦駅」ホームの端にある「湖南線終着駅」の碑。なぜか漢字
よって、ドキドキが楽しい路線バスなども使わず、駅前のタクシーに飛び乗って一路「木浦新港 」へ(ハングルの表記は목포신항만=モッポシンハンマン)。

「木浦駅」外観。行ったのはコロナ禍が本格的に爆発するギリギリの2月下旬。
まだマスクをしている人も少なく、飲酒、喀痰、咳マナーなど駅周辺の民度(って言っちゃいけないか)の低さは特筆したい。どういう意図か不明だが、オヤジにマッコリのペットボトルを投げつけられた事も書いておく
キサニムが訝しげにしていたので「세월호まで」と行ったら、「わざわざセウォロ見に来たのか(意訳)?」と言われました。あんまり居ないのかな、こういう観光客。
木浦新港は駅周辺中心部から少し離れている。想像するに絶対ただの港湾施設でセウォル以外に見所などあるはずもなく、帰りの足に絶対苦労するだろうから、「すぐに戻るから少し待っていてください。10分か…15分」とか言って出発。

木浦駅前の様子。観光の目玉「儒達山 =유달산(ユダルサン)」が見えるが我慢して港へ。
先達ブログには「儒達山からセウォルが見える」との記述も
少し(体感5~6分)走ると巨大な「木浦大橋」に出る。コレを下から見上げる公園なども観光スポットらしいが今はパス。まだ綺麗な橋を渡り始め、高い位置から海を眺めていてハッと気づいた。
「もしや、ココからアレ見えるんじゃないか…?」と。

木浦大橋を半分くらい渡ったあたりから空気が変わる。
見えた!周辺に異様なフォースを発散している船体
尻を滑らせて右側の車窓を見ていると、明らかにそこだけ異様な気を発している一角が。
ありました。韓国積弊の象徴、巨大な墓標のように突っ立った「セウォル号」。
「ホントにあった!」

船体全景。圧倒的生々しさを際立たせているのは平らに潰れた面を覆う錆
港に船が置いてあるだけなのにここまで異様ってのもまた珍しい。俺みたいにヘンな思い入れなく行って見ても多分すぐ「…うわ、何?アレ」となるハズ。
近づけばもうそこは“黄色いリボン”の海。光化門前などにもある“まだ見つかっていない人たちの写真”や横断幕やパネルがお出迎え。

多分一般人は危険だからか近くには寄れない。人っ子1人いないこの光景はあまりにシュール
「ちょっとアジョシ!、そこ、写真撮ってるんだからどいて!」と俺に言い放った“世界は私のもの”アジュンマが連れ合いの車で去っていくと、平日の昼下がりだからなのか、視界には人の姿ゼロ。
スカーンと晴れた港に吹く強い風に煽られたリボンがたてるハタハタハタハタと言う音以外に何も聞こえないシュールな世界。

フェンス1面に結ばれた黄色いリボンの海
寝かせて運ばれる時に下になっていた面が平らになり、見事に全面錆びています。塗装が綺麗に残った船首とのコントラストがまた異様。よく見れば、ちゃんと「SEWOL」の文字が読める事で「ああ、マジだ…」と気づくだろう。
実際、圧倒されて言葉もない。

よく見れば船体にハッキリ「SEWOL」の文字が。
あの悲惨な事故が現実だったことをいやが上にも意識させる
なんか、前途あった若い死者が多すぎる事やまだ行方不明者が残っている事実以外に、ものすごい数の人間の“念”のようなものを纏って別の乗物に変容してしまったみたい。
見ての第一印象は「うわコレ癒えてないじゃん…」というカンジ。原爆ドームのように祈りの対象化して、“念”が上空に拡散していくような感じが無いの、淀んでいて。未だ。
いや、強烈!
あと、ちょっと気づいてしまったんだけどココって、島めぐり遊覧船の航路じゃないの?これを見ながらの船旅ってちょっと(かなり)イヤなんだけど…

どこまでも続く黄色いリボン。哀しいやら怖いやら、重苦しくて正直長居したくない。
タクシーは待ってもらった方が絶対いい
結果、想像以上に凹むよ。見てるだけで気が滅入るので長居は無用。タクシーに待っててもらってよかった。
オススメ?しません。
R.I.P.300。Remember0416…
◉野磁馬
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