いつかは異国の土になる 〜元ロシアスパイ毒殺未遂事件〜

まさに「閑静」という形容がピッタリのソールズベリー住宅地。おかしなものがいっぱい映っているが…
1枚の写真 〜ONE SHOT〜

今回の1枚は「イギリス:怖い事件現場」。閑静な住宅地になんか違和感のあるものが多々置いてあるという…
オカルト・ミステリ好きの諸兄でイギリスに興味のない方はいないと思われるが、王道観光地ストーン・ヘンジにお越しの際はぜひ10数キロ先にある小都市ソールズベリーにぜひ足を伸ばしていただきたい。凄いよ。古くて。ストーンヘンジからバスで30分。ロンドンならウォータールー駅から、South Western Railwayで1時間半。曰くありげな時計塔もカテドラルの威容もしっかり怖く、幽霊譚も充実。「ゴースト・ストーリー・ツアー」などもあるようで、俺などの小僧が語るまでもなくゴシック好きにはとっくに「聖地」認定観光地かな。

そのソールズベリーに別種の戦慄が走ったのは2018年。元ロシアのスパイ暗殺未遂、いわゆる「スクリパリ父娘暗殺未遂事件」。画像正面の変則的二階屋が現場。この時はまだ絶賛除染中で、ヘンな服着た作業員やポリスが右往左往していた(右奥の青いのが汚染物質のダンプ)。被害者セルゲイ・スクリパリは露英二重スパイ容疑でロシア当局に逮捕拘束されたのち、アメリカによる「スパイ交換」でSVRの“美しすぎる”アナ・チャップマンらと交換されシャバに出て、即イギリスに亡命。この田舎町ソールズベリーで静かに暮らしていたところを殺し屋に襲撃された。何年もかけてこんな地方の閑静な小都市まで追いかけてきてちゃんと実行するのがまず怖い。そしてこんな田舎でもちゃんと殺し屋の姿を記録しているイギリスのCCTV文化も怖けりゃ、記録された犯人の普通のオッサン感もまた怖い。

「ホントにあった!」

世界のエスピオナージ事情もマニア諸氏に比べたらまるで暗い俺なので、なんか違ってたらご指摘ください。「ノビチョク=新参者」ということでご容赦。

この事件、様々刺激的なワードが飛び交い妙に記憶に残ってんだけど、筆頭はその「ノビチョク」。名前のカワイさに油断してはいけない。触ったら死ぬという、げに恐ろしい猛毒。サリン(これも名前カワイイ)やVXといった有機リン系神経剤の存在は日本でも一連のオウム事件で知られていたが、「ノビチョク」はこの事件で初めて聞いた国民も多かったと思う。シャワー室に閉じ込めて噴霧器で撒くとか、注射器で襟元にチュッと打つとか、ビニール袋に詰めて電車で漏らすとか、直接お茶に入れてとか、空港でドッキリカメラのフリして顔に塗るとかじゃなく、家に帰ったら確実に触るであろう“ドアノブに塗る”というシンプルな方法もまた怖い。もう見えない恐怖そのもの。

でもちょい待ってコレ、ターゲットが普通に出掛けて色んな所に寄っちゃったりなんかしたもんだから無関係の市民や家族を巻き込んだ上、本人は生き延びちゃうという、暗殺としては失敗事案だと思うんだけど。反体制活動家ナワリヌイ氏のケースも「ノビチョク」で失敗したようだが、もしかしたらこの即死させない系の暗殺ってデモンストレーションの意味があるのかな…あれも外国でしかも公共交通機関ということで本当に一般市民にとっては大迷惑でしかない。

GRUだかCBPだか知らないが、即死と見せしめ半殺しの使い分けをしているとしたら本当におそロシア。その怖さも加味されてホラー・ミステリツアーにうってつけのソールズベリー。

◉野磁馬